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肥満症・糖尿病に対する「減量・代謝改善手術」について
- 治療の目的
- 治療の必要性
- 具体的な手術方法
- 手術後に関して
- 治療を行った場合の死亡リスク
- 予想される合併症と必要な医療行為
- 考えられる他の治療法(代替手段)とそのリスク
- 専門外来
- 減量・代謝改善手術の実績
肥満症・糖尿病に対する「減量・代謝改善手術」について
当院の糖尿病・代謝・内分泌内科を受診して、肥満症・糖尿病に対する外科的治療が望ましいと判断された場合、当院で減量・代謝改善手術を受けていただくことができます。
*東邦大学医療センター佐倉病院と提携しています。
治療の目的
- 超過体重の減少
- 肥満関連疾患の改善(薬剤の減量・中止、リスク軽減など):糖尿病、高血圧、脂質異常症、高尿酸血症・痛風、冠動脈疾患(心筋梗塞・狭心症)、脳卒中、脂肪肝、月経異常・不妊、睡眠時無呼吸症候群・肥満低換気症候群、運動器疾患、肥満関連腎臓病
- 生活習慣の改善・社会生活の安定化
など
治療の必要性
肥満関連疾患に伴う心血管系疾患・脳血管疾患・悪性腫瘍の発生頻度は体重健常な方と比較して著明に上昇すると報告されています。手術により超過体重の減少、肥満関連疾患の改善が期待できます。
具体的な手術方法
(1)腹腔鏡下スリーブ状胃切除術
- 胃をバナナの様に細くします(残る胃の容量は100ml程度)
- 食事の量が制限されることで、体重減少・糖尿病改善が期待できます
- 胃から分泌される食欲刺激ホルモン(グレリン)が減少します
- 国内・海外で最も行われています
- 2021年9月現在、国内では保険診療で受けられる唯一の減量・代謝改善手術です
- BMI 50以上、糖尿病歴の長い方などでは、体重減少・糖尿病改善効果が後述するバイパス系手術に比べて劣ることがあります
- 食道裂孔ヘルニア、逆流性食道炎のある方は、術後に悪化することがあります
(2)腹腔鏡下スリーブバイパス術(スリーブ状胃切除術および十二指腸空腸バイパス術)
- 食事の量だけでなく、吸収も制限されることで、体重減少が期待できます
- 術後も通常の内視鏡で胃内の観察ができます(胃バイパス術の欠点を補う手術です)
- 2021年9月現在、先進医療や自費診療として一部の病院でのみ手術を受けることができます。
- 3つの手術の中では最も難易度が高い手術です
- 全身状態によって2回に分けて手術を行うことがあります
- 術後にサプリメントの摂取が推奨されます
(3)腹腔鏡下胃バイパス術
- 食事の量だけでなく、吸収も制限されることで、体重減少が期待できます
- 3つの手術の中で最も歴史が長く、長期成績がでています
- 2021年9月現在、自費診療として一部の病院でのみ手術を受けることができます。
- 術後は内視鏡による胃内の観察が難しくなります。ヘリコバクター・ピロリ感染の既往がある方には推奨されません
- 術後にサプリメントの摂取が推奨されます
(4)修正手術
「減量・代謝改善手術」は治療効果の高い治療法ですが、1回の手術では十分な体重減少・糖尿病改善効果が得られない方、リバウンドをする方がいらっしゃいます(特にスリーブ状胃切除術の場合)。その場合、バイパス手術を追加することで、体重減少・糖尿病改善効果が得られることがあります。これは「修正手術」と呼ばれ、海外では数多く行われていますが、国内では一部の施設でのみ実施されています。
(5)腹腔鏡手術について
「減量・代謝改善手術」では腹腔鏡手術は開腹手術と比較して、傷が小さくて済むだけでなく、後述する合併症の頻度も少なく、安全面でも優れています。そのため、全例で腹腔鏡手術を原則としています。術中の状況によって(高度な癒着など)開腹手術に移行する可能性は0ではありません。
手術後に関して
(1)手術後の流れ、検査について
術後は集中治療室(ICU)に移動します。術翌日は一般病棟に戻ります。手術後は全身状態を注意深く観察し、血液検査やレントゲン検査、CT等を適宜実施します。
(2)リハビリについて
後述する無気肺や肺炎などの合併症を起こさないようにするために、術当日もしくは翌日からリハビリを実施します。
(3)手術後の食生活について
- (回復・移行期)全身状態が安定していれば、手術翌日から経口摂取を開始します。原則的に術後1カ月間は流動食となります。
- (減量期)術後4週間以降は少しずつ固形食を始めていきます。術後4週間で約600~800kcal/日、1年で1300~1500kcal/日程度の食事を摂取できるようになります。
- 一般的には1食30分、1日5~6回食から開始します。バイパス系手術では高糖質食摂取によるダンピング症状にも留意する必要があります。数ヶ月をかけて徐々に通常の食事パターンに戻していきます。
- 術後1年以降はリバウンドする方もいるので、長期的にフォーミュラ食を使用することを推奨しています。
- バイパス系手術の場合は、吸収不良が予想されるビタミンB1・12、脂溶性ビタミン(ビタミンA・D・K)、鉄、カルシウムの定期的なモニタリングを行い、複数のサプリメントを組み合わせて摂取していただきます。
(4)退院後
食事内容、腹部症状(腹痛、腹部膨満感など)にご注意ください。
(5)術後の外来通院
手術後も継続的な食事・栄養管理が必要です。定期的に外来通院ができない方は高確率でリバウンドをきたします。
また手術後には身体的・精神的にバランスを崩す場合があり、定期的な外来通院は必須です。
治療を行った場合の死亡リスク
日本内視鏡下肥満・糖尿病外科研究会からの報告によれば、日本で行われている「肥満・代謝(糖尿病)外科手術」の手術関連死亡率は最小リスク(千人に一人)0.1%です。
予想される合併症と必要な医療行為
手術を受けた場合、次のような合併症が生じることがあります。
1)縫合不全(ほうごうふぜん)(1.3%)
縫合不全とは、消化管を縫合または吻合した部分がうまくつかないことにより、消化管の内容物がもれてしまう状態のことをいいます。他の消化管手術と比較して、減量・代謝改善手術では、「いったん発症すると難治性になりやすい」、「術後2週間以上経過してからも発症することも稀ではない」という特徴があります。再手術を要することもあります。
2)術後出血(4.3%)
手術後に腹腔内、創部、吻合部に出血をきたすことがあり、輸血や再手術が必要になる場合があります。
3)狭窄(きょうさく)(3.3%)
術後に胃管や吻合部が狭くなり、内視鏡治療や再手術が必要になる可能性があります。
4)難治性胃食道逆流症(1%未満)
内服薬でコントロールできない場合は、内視鏡治療や再手術が必要になる可能性があります。
5)創部感染(1%未満)
創部に発赤や痛みがあとから生じた場合は、感染している可能性があります。創部を開放して膿を出して、シャワー洗浄を実施する場合があります。
6)肺炎・無気肺(1%未満)
手術創の痛みのために離床や深呼吸が十分にできない場合に起こりやすく、手術前から呼吸機能の悪い方は発症リスクが高いです。手術後早い時期からリハビリをすることで、リスクを減らすことができます。
7)腸閉塞・内ヘルニア(1%未満)
手術後に何らかの原因で、食塊や消化液が肛門側に流れなくなって排便・排ガスがなくなり嘔吐してしまう病態を、腸閉塞といいます。手術に伴って発生する癒着等によって腸管が不自然に折れ曲がったり、ねじれたりして、腸管が機械的につまってしまう場合と、単に機能的に腸の動きが悪くなってしまう場合の2つがあります。いずれも絶食にして回復するのを待ちますが、場合によっては再手術を行うこともあります。手術後に腸管が臓器や組織の隙間に嵌りこんでしまう内ヘルニアを起こすこともあり、再手術が必要になります。
8)他臓器損傷(1%未満)
術中に脾臓や腸などの臓器を損傷し、追加手術や再手術を要することがあります。
9)不整脈(1%未満)
術後経過の中で不整脈がみられることがあります。不整脈の多くは一時的なもので、注意深い観察と適切な対処を行っていれば徐々に回復します。
10)肺動脈血栓症(1%未満)
肺動脈血栓症とは、手術中に生じた血の固まり(血栓)が、肺の血管につまってしまうことで、長時間、飛行機に乗ったときに起こる「エコノミークラス症候群」と同じ状態です。普段は筋肉が収縮することによってポンプ作用をもち、また血管内の逆流防止の弁によって、静脈の血液の流れが維持されています。しかし、手術中は下肢の筋肉は全く動かないので、血液がよどむ傾向があり静脈内で血が固まりやすくなります。肺動脈血栓症の多くは、手術後の初めて起立歩行したときに、急激な呼吸困難症状という形で発症します。
予防法として、手術後できるだけ早い時期から離床することが極めて重要ですが、手術中や手術直後の体を自発的に動かせない時期であっても、器械による下肢のマッサージを行い、血液の循環をよくします。また、血液を固まりにくくする薬(ヘパリン等)を、手術後に注射することもあります。
※合併症に起因して生命を落とすような不測の事態や重度の後遺症を残すことも可能性としてはゼロではありません。万が一、合併症が起きた場合には最善の処置を行います。
考えられる他の治療法(代替手段)とそのリスク
内科治療を継続します。内科治療で十分な減量が得られない場合、体重健常な方と比較して肥満関連疾患に伴う心血管系疾患・脳血管疾患・悪性腫瘍の発生頻度は著明に上昇すると報告されています。
参考文献
- メタボリックサージェリー Clinical Update メディカ出版
- Modern Physician 特集 肥満症診療最前線 新興医学出版社
- 医学のあゆみ 肥満–外科治療と基礎研究の最新情報
- 東邦大学医療センター佐倉病院 高度肥満治療/肥満外科手術のホームページ
専門外来
消化器外科の「減量・代謝改善手術」外来 (火曜日午前・金曜日午後)
専門の平野佑樹医師/板野理医師が担当します。当院の糖尿病・代謝・内分泌内科を受診して、肥満症・糖尿病に対する外科的治療が望ましいと判断された場合、当院で減量・代謝改善手術を受けていただくことができます。
*東邦大学医療センター佐倉病院と提携しています。
減量・代謝改善手術の実績
当院では2022年1月に第一例目の手術を行い、2023年8月の時点では4例(男性2名、女性2名、平均年齢56歳)の手術を行っています。全例で合併症もなく無事手術を終えています。術後、平均30.5㎏の減量が達成できており(図1)、この成績は全国で減量・代謝改善手術を受けられた2,885症例(65歳未満)の平均27㎏の減量(文献1)と比較しても遜色ありません。また、4人中3人に糖尿病があり、術前は薬物治療(1名はインスリン治療を含む)がされていましたが、術後は全例薬物治療なしで、HbA1c 6.5% 未満を達成できています。このことは、いわゆる「糖尿病が治った」とされる「寛解(かんかい)」基準を満たしています(文献2)。
減量・代謝改善手術は消化器外科、糖尿病・代謝・内分泌内科、麻酔科、精神科、リハビリテーション科、栄養室、薬剤部の多職種連携で行われている治療です。
今後も減量・代謝改善手術の必要な患者様に安全に手術を受けていただけるよう、職員一同努力していきます。
(文献1)Takemoto M et al. Ann Gastroenterol Surg. 2023;00:1–
(文献2)Riddle MC et al. Diabetes Care. 2021;44:2438-2444.