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消化器外科
上部消化管
・当院を受診される食道がん、胃がんの患者さまへ
・当チームの特徴
食道がん
病態
食道がんは食道粘膜にできる悪性腫瘍です。他の消化器がんと比較して、リンパ節などに転移をきたしやすいという特徴があります。初期は無症状ですが、進行するとつかえ感や胸部違和感、体重減少などの症状が現れます。日本では喫煙とアルコールが危険因子となっている扁平上皮癌と呼ばれるタイプのがんが多いです。最近は生活スタイルの欧米化を反映してか、腺癌とよばれるタイプのがんも増加傾向です。
治療
がんの進行度や個々の患者さまの状態や希望に沿った治療法を選択します。主に下記の4つの治療法があります。詳細は外来で主治医から説明させていただきます。
1. 手術
手術で切除可能な食道がんに対しては手術が治療の中心となります。胸・腹・首(頚部)の3領域におよぶ手術操作が及ぶ食道切除胃管再建術が標準術式です。食道の大部分と胃の一部およびその周囲のリンパ節を一緒に切除します。胃を細長くした胃管と呼ばれるものを作成し、首に残っている食道とつなぎます。胃切除後や胃がんを併発している症例では胃管を使用できないため、当院では結腸を用いて再建しています。従来は開胸・開腹手術が主流でしたが、最近は胸腔鏡や腹腔鏡を用いる低侵襲手術が全国的に主流となっています。当院でも原則、全例で低侵襲手術を実施しています。

2. 薬物療法
ここ数年で食道がんに対して効果が期待できる薬物療法が増えました。治療を継続していく上で副作用のコントロールが最も大切です。当院には薬物療法に精通した腫瘍内科医が複数名在籍しており、ご高齢の方でも安心して薬物療法を受けていただくことができます。
・がんの根治性(治る確率)を高めるために手術前や手術後に薬物療法を追加することがあります(術前3剤併用DCF療法やFLOT療法、術後の免疫療法[免疫チェックポイント阻害薬]など)。

・手術での根治が難しい症例では、がんの進行を遅らせ、症状を緩和するために薬物療法を行います。薬物療法が奏功すれば(高い効果が得られれば)、根治手術(コンバージョン手術)が可能となる場合があります。
・手術を希望されない患者さまには薬物療法と放射線治療と組み合わせることで、根治を目指せる治療もあります(根治的化学放射線療法)。
3. 放射線療法
当院では放射線治療に精通した放射線下科医が在籍しており、最新の治療機器を用いた治療を受けていただくことができます。
・放射線治療は手術を希望されない患者さまに薬物療法と組み合わせて根治を目指すときに使用します。
・手術不能な患者さまに対して、症状を緩和する目的で使用することがあります。
・手術後の再発病変に対して、根治を期待して使用することがあります。
4. 内視鏡治療
早期にみつかった比較的浅いがん(表在がん)に対する治療です。条件を満たせば、内視鏡治療のみで根治が期待できます。当院では内視鏡治療に精通した消化器内科医が在籍しており、治療を担当しています。
胃がん
病態
胃がんは胃の粘膜から発生する悪性腫瘍で、以前は我が国のがんによる死因で最も多い疾患でした。最近はピロリ菌の除菌の普及などにより減少傾向にありますが、厚生労働省による2023年の人口動態統計の調査報告によると、肺がんや大腸がんに次いで男性では3番目、女性では5番目に多い死亡数とされています。
早期ではほとんど特有の症状はなく、検診や他の症状のための検査で偶然見つかるものがほとんどです。しかし、進行してくると胃の痛み、胸やけ、貧血や血便または黒色便、体重減少などさまざまな症状が出てきます。主な検査法として、上部消化管内視鏡(胃カメラ)、上部消化管X線造影検査(バリウムを飲む検査)がありますが、早期の発見には胃カメラが必須です。特に人間ドックなどの定期的な胃カメラによる検診が有用です。胃カメラで胃がんの診断となった場合、CTスキャン、腹部超音波検査、PET検査などで病気の進行度(臨床的ステージ)を詳しく調べます。
治療
臨床的ステージ、がんの性状、大きさ、また患者さまの状態により、総合的に判断して最良と考えられる治療法を選択します。主に下記の3つの治療法があります。
1. 手術
切除可能な胃がんに対しては、手術が治療の中心となります。胃の下3分の2を切除する幽門側胃切除術、胃の上の方を切除する噴門側胃切除術、胃全体を切除する胃全摘術など病変の大きさ、部位、臨床的ステージによってさまざまな術式があります。当院の特色としては、傷が小さく手術によるダメージが少ないロボット支援下胃切除や腹腔鏡下胃切除術を積極的に行っています。特にロボット支援手術では、ハイビジョン3D画像による手術部位の立体視機能やロボット鉗子の手振れ防止機構が付加され、腹腔鏡手術のメリットがさらに進化したため、良好な術後成績が得られています。術後早期の退院が可能となり、当科における標準的な入院期間は8日~14日となっています。
2. 薬物療法(化学療法)
薬物療法に精通した腫瘍内科医と協力しながら、薬剤を用いた治療を行っています。近年より新たな薬剤が導入され、細胞障害性抗がん剤や分子標的薬、免疫チェックポイント阻害剤などを使用します。
胃がんの治療の基本は手術による切除ですが、切除が難しい進行した胃がんや手術後に再発した胃がんに対しては、薬物療法を行います。また手術後に再発を予防する目的で計画的に術後化学療法を行うこともあります。
食道がんの薬物療法と同様に、薬物療法による効果が高く胃がんが縮小した場合は、切除が難しかった胃がんも手術による切除を行います。
3. 内視鏡治療
早期に発見された胃がんは、リンパ節転移がなく一定の条件を満たせば、胃カメラにより胃の中から切り取る治療が可能です。当院では専門の消化器内科医が内視鏡治療を担当しています。入院期間は数日間程度です。
内視鏡治療で胃がんを切除して、顕微鏡で観察する病理組織検査を行います。検査結果において治療前に想定した以上に胃の壁の深くまで胃がんの細胞が認められる場合や、血管やリンパ管に胃がんの細胞が入り込んでいる場合は、リンパ節に転移している可能性が高くなるため、手術を追加して行います。
消化管間質系腫瘍(GIST)
病態
GISTは、Gastrointestinal Stromal Tumorの略称で、消化管間質腫瘍と呼ばれ、胃や腸などの消化管にできる悪性腫瘍の一種です。胃のGISTは胃の壁の筋肉層から発生し、胃の粘膜を下から押し上げるようにして腫瘤が形成されるため、胃粘膜下腫瘍として発見されることが多い疾患です。多くの場合、早期では無症状です。腫瘍の増大に伴い、腹痛や吐き気、腫瘍からの出血による下血、血便、貧血などの症状が認められることがあります。
治療
GISTは良性・悪性の両者があり、胃カメラの検査で悪性の所見がある場合や腫瘍が増大している場合に手術を行います。当科では、胃を部分的に切除する腹腔鏡下胃局所切除術のほか、なるべく胃を切除せずに腫瘍を摘出する最新の治療法、腹腔鏡・内視鏡合同手術(Laparoscopy Endoscopy Cooperative Surgery: LECS)を積極的に行っています。
後者の方法では、消化器内科の専門医が胃カメラを用いて胃の内側から腫瘍近傍を切開し、それと同時に外科医が腹腔鏡下に胃の外側から腫瘍を挟み撃ちにしてくり抜くことにより、腫瘍を過不足なく安全に摘出することが可能です。この方法は外科と内科が協力して行う画期的な術式で、胃機能を温存可能な低侵襲手術として注目されています。

腹腔鏡・内視鏡合同手術(LECS)
食道良性疾患
食道アカラシア、逆流性食道炎、食道裂孔ヘルニア等の良性疾患の治療を扱っています。
食道の機能評価目的で食道内圧検査や24時間pHモニターの検査も行っています。


食道アカラシア
病態
この疾患は、食道内の食べ物や飲み物を胃に運ぶ機能(蠕動運動)が低下し、食道と胃の境目にある下部食道括約筋が緩まないために発症します。食後の胸のつかえ感が主な症状ですが、数か月から数年かけて徐々に進行した場合には、 吐き気や嘔吐を伴い食事摂取が困難になることがあります。さらに、夜間に未消化の食物の逆流が起こり、誤嚥(むせ込みや肺炎)を引き起こす危険性があるため、特に高齢者では注意が必要です。
食道アカラシアが直接の原因となって死亡することは基本的にはありませんが、通常の方より食道がんになるリスクが高いといわれているので、定期的な検査をおすすめします。
治療
下記の3通りの治療法がありますが、進行状況や症状の程度により個々の患者様に合った治療法を選択しています。
1. 内服薬による治療
食道・胃の境目にある下部食道括約筋を緩め、同部の内圧を下げる効果を期待して、カルシウム拮抗薬や亜硝酸薬といった血圧を下げる薬を用います。ただし、病態が進行した状態ではあまり効果的ではありません。また、血圧が下がりすぎるといった副作用が出る場合もあるため、もともと血圧の低い方には投与することができません。
2. 内視鏡的治療
上記の下部食道括約筋をバルーンで膨らませて通過を改善させる目的で内視鏡的バルーン拡張術を行うことがあります。また、通過障害の原因となっている下部括約筋を内視鏡的に切開する、内視鏡的筋層切開手術(POEM)を行うこともあります。
3. 外科的治療(手術)
最も確実な治療法で、その有効性について多くの論文が発表されています。
具体的には、食道から胃にかけての筋肉を一部切開することにより下部食道括約筋の内圧を下げ、さらに胃の一部を食道に巻きつけることにより胃内容物の食道への逆流防止機構を付け加えるHeller and Dor手術を行います。食道アカラシアはごくまれに発見されるため、一般的な病院では扱われることが少ない疾患です。当科では長年食道疾患の治療に従事し、かつ実際に治療経験のある専門医が担当し、小さな傷で身体への負担を軽減できる腹腔鏡を用いた方法で手術を安全に行っています。
逆流性食道炎、食道裂孔ヘルニア
病態
食道には逆流性食道炎(胃食道逆流症、GERDとも呼ばれる)という発生頻度の高い病気があります。食道と胃の境目には下部食道括約帯と呼ばれる逆流防止機構があるのですが、逆流性食道炎の患者様はこの逆流防止機構の働きが低下し、胃液が食道に頻繁に逆流するために、胸やけ、胃痛、胸痛、酸っぱい液が上がってくる呑酸、長く続く咳などさまざまな症状を引き起こします。
治療
治療は消化器内科での内服薬が主体となりますが、最新の薬剤を用いてもなかなか病状をコントロールできない場合があります。このような時に手術治療を行います。具体的には胃の壁を食道に巻きつけるように縫い付けることで胃の内容物が逆流しないようにする手術があり、それを腹腔鏡下手術で行います。

上部消化管チームでのとりくみ
ICG蛍光法を用いたナビゲーション手術
インドシアニングリーン(ICG)と呼ばれる色素を用いて術中に胃がんのリンパ流を観察するナビゲーション手術をとりいれています。ICGの蛍光特性を用いて腹腔鏡下で蛍光観察を行うことで、手術中に腫瘍の位置やリンパ流をリアルタイムに確認することができます。
乳がんや皮膚がんの領域ではこのICGはがんから最初に転移が生じるリンパ節(センチネルリンパ節)があるかをみつけるために用いられており、その結果に基づいて、リンパ節転移のない症例に対しては切除範囲を縮小する機能温存手術がとりいれられています。胃がん領域でも近い将来にICGを用いてリンパ節転移がない場合に胃の切除範囲を小さくすることで胃の機能を温存した手術が可能となることが期待されています。胃がんに対するICGを用いたナビゲーション手術は現時点では標準治療としては行われておらず、当院においても臨床研究として行わせていただいております。興味がありましたら担当医にお問い合わせください。
