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消化器外科
胃がん
胃には炎症、潰瘍、腫瘍と多くの病気が存在します。消化器外科が担当するのは腫瘍すなわち胃がんが最も多く、悪性リンパ腫や消化管間質系腫瘍(GIST)という病気も対象としています。
胃の粘膜から発生する悪性腫瘍で、最近まで我が国のがんによる死因で最も多い疾患でした。最近は減少傾向にあり、その理由の一つにはピロリ菌の除菌の普及などが挙げられています。しかし、厚生労働省による2015年人口動態統計の調査報告によると、男性では肺がんに次いで2番目、女性では大腸がん、肺がんに次いで3番目に多い死亡数とされています。
症状
早期ではほとんど特有のものはなく、検診や他の症状のための検査で偶然見つかるものがほとんどです。しかし、進行してくると胃の痛み、胸やけ、貧血や血便または黒色便、体重減少などさまざまな症状が出てきます。
診断
上部消化管内視鏡(胃カメラ)、上部消化管X線造影検査(バリウムを飲む検査)がありますが、早期の発見には胃カメラが必須です。前述したように早期胃がんにはほとんど症状はありませんので、人間ドックなどの定期的な胃カメラによる検診が有用です。胃カメラで胃がんの診断となった場合、CTスキャン、腹部超音波検査、PET検査などで病気の進行度合い(臨床的ステージ)を詳しく調べます。
治療
内視鏡的治療、手術治療、化学療法など最良と考えられる治療法を選択します。これは臨床的ステージ、がんの性状、大きさ、また患者様の状態により、総合的に判断します。当科ではカンファレンスで十分討議を行った上で決定しています。 内視鏡治療には最も浅い層である粘膜の病変を切除する内視鏡的粘膜切除術(endoscopic mucosal resection:EMR)と、さらにその下の層である粘膜下層までの切除となる内視鏡的粘膜下層剥離術(endoscopic submucosal dissection:ESD)(図a)があります。EMRやESDは消化器内科の専門医が施行します。
図a 内視鏡的粘膜下層剥離術(endoscopic submucosal dissection:ESD)
手術治療は胃の下3分の2を切除する幽門側胃切除術、胃の上の方を切除する噴門側胃切除術、胃の一部分を切除する胃部分切除術、胃全体を切除する胃全摘術など病変の大きさ、部位、臨床的ステージによってさまざまな術式があります。さらに当院の特色として、傷が小さく手術によるダメージが少ない腹腔鏡下胃切除術を積極的に行っています。(図b)
化学療法は抗がん剤治療を指します。病変の進行度により手術よりも有効と考えられる場合や、手術前にある程度病状を小さくして行う場合、手術後に再発予防として行う場合などさまざまです。また、採取したがんの組織から遺伝子情報を調べて、より効きやすい抗がん剤を選択する個別化治療を行っています。
図b 開腹手術と腹腔鏡下手術の傷の比較
胃潰瘍
40年ほど前までは胃潰瘍も手術する理由となる疾患でした。しかしH2ブロッカーという薬の登場により、胃潰瘍を手術することは激減し、近年はプロトンポンプ阻害薬という潰瘍治療に非常に効果のある薬により手術することはあまり見られなくなりました。しかし、潰瘍に穴が開いてしまう穿孔、潰瘍のために胃が変形し食物が通過しなくなる狭窄、血管露出型の特殊な潰瘍で出血を内視鏡で止められないような場合には、今でも手術を行うことがあります。
手術の方法はそれぞれの病態で大きく異なりますが、数十年前のように胃の下部3分の2ほどを切除する広範囲胃切除術を行うことは少なくなり、またこの手術も腹腔鏡下手術で行うことが多くなりました。
悪性リンパ腫や消化管間質系腫瘍(GIST)について
胃に発生する悪性リンパ腫や消化管間質系腫瘍(GIST)も手術の対象となることがあります。悪性リンパ腫とは血液系の悪性腫瘍ですが、消化管に発生することがあり、胃では大きな潰瘍を形成することがあります。抗がん剤治療と併用する治療を行います。消化管間質系腫瘍(GIST)は胃粘膜下腫瘍として発見されることが多い疾患です。良性・悪性の両者があり大きさの変化や、胃カメラの検査で悪性に特徴的な所見がある場合に手術を行います。
当科では、胃を部分的に切除する腹腔鏡下胃局所切除術(図b参照)のほか、なるべく胃を切除せずに腫瘍を摘出する最新の治療法、腹腔鏡・内視鏡合同手術(Laparoscopy Endoscopy Cooperative Surgery: LECS(図c))を積極的に行っています。
後者の方法では、消化器内科の専門医が胃内視鏡を用いて胃の内側から腫瘍近傍を切開し、それと同時に外科医が腹腔鏡下に胃の外側から腫瘍を挟み撃ちにしてくり抜くことにより、腫瘍を過不足なく安全に摘出することが可能です。この方法は外科と内科が協力して行う画期的な術式で、胃機能を温存可能な低侵襲手術として近年注目されています。
図c 腹腔鏡・内視鏡合同手術(LECS)
食道がん
食道の粘膜から発生する悪性腫瘍で、喫煙や飲酒、胃酸逆流が原因で発症します。
早期の段階では、ほとんど無症状ですが、のどの違和感やしみる感じが生じることもあります。
進行してくると食事の引っかかり感が悪化し(嚥下困難)、吐き気や嘔吐のほか、声がかれる現象(嗄声といいます)など、さまざまな症状が出てきます。
治療
腫瘍が食道の粘膜にとどまる早期のがんに対しては、可能なかぎり内視鏡を使用した治療(EMR(内視鏡的粘膜切除)、ESD(内視鏡的粘膜下層剥離))を施行しています(胃がん項目参照)。
腫瘍の範囲が広く、上記の内視鏡治療ではがん細胞が完全に取り除けない場合は、個々の状況に応じて手術や抗がん剤治療を選択します。
特に手術方法に関しては、手術後の痛みが少なく、肺炎等の術後合併症が軽減化される胸腔鏡手術を積極的に行っています。この方法は5、6か所の1cm程度の小さな傷のみで手術を行うことが可能です(完全胸腔鏡下食道切除術)。従来行われてきた開胸手術では、右側の胸部を30cm程度切開していたため、その差は歴然としています(図1)。
食道は胃にくっつけた状態で腹部から取り出しますが、腹部も腹腔鏡を用いて手術するため、患者様の身体への負担が軽いのが特徴です。
さらに進行した食道がんに対しては、化学療法(抗がん剤)のほか、緩和治療などを組み合わせる集学的治療も行っています。
図1 手術後創部の比較(右腋の下~胸部を横から撮影)
左:完全胸腔鏡下食道切除術後
右:開胸手術後(最新 外科手術手技 no.17、凸版印刷株式会社 2005年より抜粋)
逆流性食道炎(胃食道逆流症、GERD)
食道には逆流性食道炎(胃食道逆流症、GERDとも呼ばれる)という発生頻度の高い病気があります。食道と胃の境目には下部食道括約帯と呼ばれる逆流防止機構があるのですが、逆流性食道炎の患者様はこの逆流防止機構の働きが低下し、胃液が食道に頻繁に逆流するために、胸やけ、胃痛、胸痛、酸っぱい液が上がってくる呑酸、長く続く咳などさまざまな症状を引き起こします。
治療
治療は消化器内科での内服薬が主体となりますが、最新の薬剤を用いてもなかなか病状をコントロールできない場合があります。このような時に手術治療を行います。具体的には胃の壁を食道に巻きつけるように縫い付けることで胃の内容物が逆流しないようにする手術があり、それを腹腔鏡下手術で行います(図2)。
図2 胃食道逆流防止手術(腹腔鏡下Nissen噴門形成術)
胃底部(胃の上の部分)を腹部食道に巻きつけるように縫い付ける
食道アカラシア
20歳代以降のすべての年齢で起こり得る、比較的まれな食道の良性疾患です。
食後の胸のつかえ感が主な症状ですが、数か月から数年かけて徐々に進行した場合には、 吐き気や嘔吐を伴い食事摂取が困難になることがあります。さらに、夜間に未消化の食物の逆流が起こり、誤嚥(むせ込みや肺炎)を引き起こす危険性があるため、特に高齢者では注意が必要です。
この疾患は、食道内の食べ物や飲み物を胃に運ぶ機能(蠕動運動)が低下し、食道と胃の境目にある下部食道括約筋が緩まないために発症します。食道アカラシアが直接の原因となって死亡することは基本的にはありませんが、通常の方より食道がんになるリスクが高いといわれているので、定期的な検査をおすすめします。
治療
下記の3通りの治療法がありますが、進行状況や症状の程度により個々の患者様に合った治療法を選択しています。
1.内服薬による治療
食道・胃の境目にある下部食道括約筋を緩め、同部の内圧を下げる効果を期待して、カルシウム拮抗薬や亜硝酸薬といった血圧を下げる薬を用います。ただし、病態が進行した状態ではあまり効果的ではありません。また、血圧が下がりすぎるといった副作用が出る場合もあるため、もともと血圧の低い方には投与することができません。
2.内視鏡を用いたバルーン拡張術
内視鏡で観察しながら、上記の下部食道括約筋をバルーンで膨らませて通過を改善させる治療法です。手術と比べて身体にかかる負担が少なく、繰り返し行うことが可能です。比較的症状の軽い患者様には有効ですが、既に進行した状態や若年者のケースでは効果があまり期待できない場合もあります。
3.外科的治療(手術)
最も確実な治療法で、その有効性について多くの論文が発表されています。
具体的には、食道から胃にかけての筋肉を一部切開することにより下部食道括約筋の内圧を下げ、さらに胃の一部を食道に巻きつけることにより胃内容物の食道への逆流防止機構を付け加えるHeller and Dor手術を行います(図3・図4)。食道アカラシアはごくまれに発見されるため、一般的な病院では扱われることが少ない疾患です。当科では長年食道疾患の治療に従事し、かつ実際に治療経験のある専門医が担当し、小さな傷で身体への負担を軽減できる腹腔鏡を用いた方法で手術を安全に行っています。
我々の強み
当科では、食道・胃領域のあらゆる疾患に対して、個々の病態に応じた最適の治療を提供いたします。
食道がんに対しては、20年以上にわたり食道疾患の診療に従事していた専門医が担当します。
特に食道がんの外科的手術では高度な技能が求められます。当院では、千葉県下でも施行している施設が少ない難易度の高い手術(完全胸腔鏡下食道切除術・腹腔鏡補助下胃管作成術)を安全に行っています。この手術方法では、傷が小さく痛みが少ないだけでなく、手術後の肺合併症が軽減化されるメリットがあります。食道がんが早期の段階であれば、当院消化器内科と連携し内視鏡的治療で切除します。また、より進行した状況であれば、抗がん剤治療を適宜併用して腫瘍を小さくした後に手術を行います。
食道裂孔ヘルニア・難治性逆流性食道炎、食道アカラシア、食道粘膜下腫瘍等の良性疾患に対しても、豊富な治療経験のある専門医が担当し、小さな傷で身体への負担を軽減できる腹腔鏡を用いた手術を積極的に実施しています。
早期胃がんや胃良性疾患に対しても腹腔鏡手術を積極的に導入し、入院期間の短縮化を図っています。我々は極力臓器機能を温存できる手術方法にこだわり、可能な限り胃を残す手術を取り入れています。通常であれば、胃を全部切除され得る胃上部の早期胃がん症例においても、胃の半分を残しつつ胃酸逆流防止機能を付加した腹腔鏡補助下噴門側胃切除を行っています。 平滑筋種・GIST・カルチノイドといった粘膜下腫瘍に対しては、腫瘍サイズや腫瘍発育形態に応じた手術方法を提示しております。特に、腫瘍のみを過不足なく取り除く最新の治療法である腹腔鏡・内視鏡合同手術(LECS)を積極的に行い、良好な術後成績が得られております。 また、最近増加傾向にある食道胃接合部がん(食道・胃の境界に発生するがん)は、腫瘍の範囲や進行度に応じて、食道がんに対する手術と胃がんに対する手術を組み合わせた治療を行っています。
腹部臓器に対する腹腔鏡手術は全国的に普及していますが、腫瘍の一部が食道に及ぶ食道胃接合部がんは個々の症例について胸部の手術(食道切除や縦郭リンパ節郭清)を追加すべきか検討する必要があります。
腹腔鏡を用いて胸部食道に到達する方法(経食道裂孔的アプローチ)のほか、高難度の胸腔鏡手術を組み合わせた低侵襲な治療法をご提供できることが我々の強みであると考えています。
お困りのことがございましたら、お気軽にご相談ください。
食道・胃疾患専門外来(月曜日午前/火曜・木・金曜日午後)
悪性疾患(食道がん・胃がん・胃GIST等)から良性疾患(胃食道逆流症・食道アカラシア・食道平滑筋腫・難治性胃潰瘍等)まで幅広く扱っています。20年以上の診療経験を持つ専門医が担当し、病態や進行度に応じた最善の治療を提供いたします。
食道がんに対しては、内視鏡的切除(EMR/ESD)や手術(開胸開腹手術、胸腔鏡・腹腔鏡手術)、術前・術後抗がん剤治療等、多岐にわたる治療を行っています。
胃がんや食道・胃良性疾患に対する外科的治療では、適応を決めて積極的に腹腔鏡下手術を行い、可能な限り残存臓器機能を温存するように努めております。当院消化器内科と緊密に連携して、最新治療である腹腔鏡・内視鏡合同手術を取り入れているほか、化学療法、緩和医療等、個々の症例に適したきめ細かな治療を心掛けています。