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心臓外科

虚血性心疾患

冠状動脈って何?

1. 心臓はとても働き者

心臓はとても働き者

心臓の役割は、全身に血液を送り届けること、つまり心臓は血液のポンプと言えます。
心臓が扱う血液の量は1分あたり5リットル(500mlのペットボトル10本分!!)。心臓は、これだけだくさんの血液を昼夜を問わず、運び続ける大変な働き者です。これだけの働きをするためにはたくさんのエネルギーが必要です。いったい、心臓はどのようにして必要なエネルギーを作り出しているのでしょうか?

2.心臓へのエネルギー供給路

心臓へのエネルギー供給路

心臓にとってのエネルギー減は糖質や脂質ですが、これを利用するためには酸素も必要です。これらは心臓まで運ばれる血液の中に含まれます。つまり、たくさんの血液が筋肉の中にまで流れ込まないと、心臓はこの重労働をこなすことはできないのです。
心臓の筋肉へは、表面を走る直径1-2mmほどの細い動脈から血液が送られます。つまり心臓は、ストローのような細い管から、チューチューと栄養を吸っています。

3.冠状動脈

心臓の表面では3本の細い動脈が走行しています。ちょうど心臓が冠をかぶっているかのように見えることから冠状動脈と呼ばれます。この冠状動脈が心臓に血液を送り届けているのです。
冠状動脈には、左冠動脈と右冠動脈の2本があり、左冠動脈はすぐに前下行枝と回旋枝に分かれます。

冠状動脈

冠状動脈

虚血性心疾患ってどんな病気?

1.冠状動脈が詰まる病気:虚血性心疾患

心臓へのエネルギー供給路

たくさんの栄養を運んでくれる冠状動脈は、心臓にとっては、ガスや水道のような”ライフライン”ともいえます。しかし、冠動脈はとても細く、年齢とともに傷みやすい。冠状動脈の流れが悪くなり、十分な血液を送れなくなると、心臓はエネルギー不足のために、もはや十分な働きをすることができません。このような病態を虚血性心疾患といい、代表的な病気に、狭心症や心筋梗塞があります。

2.主な原因は動脈硬化

心臓へのエネルギー供給路

冠動脈が詰まってしまう主な原因は動脈硬化です。動脈硬化では、血管の壁の中にコレステロールなど脂の塊が蓄積します。その結果、血管の内腔が狭くなり、一定量以上の血液が流れることができなくなります。さらには脂のたまった壁はもろく、破れてしまうことがあります。破れればそこを流れている血液が反応し、固まってしまう(凝固)ために、血管は閉塞してしまいます。

3.2つのタイプの虚血性心疾患

虚血性心疾患は、慢性に経過し、病状が長期間安定している安定狭心症と、急性に発症し、短い時間で急速に病状の悪化する急性冠症候群の2つに分けられます。

a. 安定狭心症

血管壁に脂がたまり血管内腔が狭くなると、心臓への血流は制限されます。例えば運動して心拍数や血圧が上昇すると、心臓の仕事量が増えますが、十分な血液はもはや供給されません。こうした病気を狭心症と言います。
血流不足になると胸の痛みが出現します。典型的な症状は、運動時などに胸がぎゅっと痛くなり、安静にすると数分で軽快します。人によっては傷みではなく、重苦しさ、圧迫感、不快感と感じることもあります。典型的傷みの場所は前胸部がですが、みぞおち、肩、のど、歯などの痛みと感じることもあります。

安定狭心症

b. 急性冠症候群

血管壁にたまった脂が破れると、流れている血液が反応し、凝固します。突如、血流が低下するため、症状も急速に進展します。特に血管が閉塞して心臓の筋肉が壊死する病気を心筋梗塞と言います。
通常は突然の激しい胸痛が生じ、冷汗や嘔吐を伴うこともあります.安静にしても必ずしも血流は改善せず、この場合胸痛は長く持続します。

心臓へのエネルギー供給路

安定狭心症の治療

どんな治療がある?

治療方針を決定するには、CTやカテーテルで冠動脈を描出し、病変の数、場所、狭窄の程度を明らかにします。その他にも心筋虚血の程度、心機能、並存疾患の有無を包括的に検討して、治療方針を決定します。

安定狭心症

1.内科的治療

内科的治療は、安定狭心症治療の根幹となる大切な治療です。正しく症例を選択すれば血行再建療法と同等の心筋梗塞や心臓死亡を予防する効果が得られます。

動脈硬化リスク管理

  • a. 動脈硬化リスク管理
    高血圧、糖尿病、喫煙、高脂血症をきっちりと管理する。
  • b. 狭心症治療薬
     1. 血液をサラサラにする抗血小板薬
     2. 心臓の仕事量を減らすベータ遮断薬
     3. コレステロールなど脂質を減らす脂質降下薬(スタチン)
    の3つが基本となります。
    このほかに心保護作用のあるACE阻害薬、胸痛症状を緩和する抗強心薬(ニトロ製剤)などがあります。
2.血行再建療法

内科的治療では十分な治療効果が得られない場合には、直接血流を増加させる血行再建療法を行います。主幹部病変や、心機能が悪い症例などで、積極的に血行再建療法を検討します。

a. カテーテル治療(PCI)
先端に風船のついたカテーテルを用いて、狭窄部位を拡張します。この際ステントとよばれる網状の筒を拡張部位に留置し、狭窄部位が再び狭くなるのを予防します。

カテーテル治療(PCI)

カテーテル治療(PCI)

b. バイパス手術(CABG)
体の別の部分から血管を採取して、心臓の血管に吻合し、新しい血流路を再建します。

バイパス手術(CABG)

バイパス手術(CABG)

冠動脈バイパス手術

1.狭心症を手術で治す

狭心症を手術で治す

 “狭心症を手術で治す” それまで何度も試みられてきた夢のような治療は、1967年5月7日アルゼンチン人心臓外科医 ルネ ファバロロによってついに実現します。冠動脈バイパス手術が成功したのです。手術が実施された米国クリーブランドクリニックでは、翌年150人もの患者さんが手術目当てに殺到します。心臓外科分野での新しい時代の幕開けを象徴する出来事でした。
それから50年。バイパス手術は様々な進化を遂げます。糸も針も改良され、動脈グラフトが導入され、心拍動下のバイパス吻合も可能となりました。現在、冠動脈バイパス手術、世界中で年間80万件、日本では年間1.5万件実施されており、もっとも有名な外科手術の一つと言えます。

2.冠動脈バイパス手術ってどんな手術?

冠動脈バイパス手術とは、冠状動脈の狭窄部の先にバイパス血管を直接吻合し、新たな血液の流れを作り出す手術です。

冠動脈バイパス手術

3.心臓以外の場所からバイパス血管を採取します

冠状動脈はとても細く、内腔が1.5~2.0mm程度しかありません。現在使用可能な人工血管は細いものでも6mm以上と、冠状動脈よりもずっと太く、心臓のバイパス手術には使用できません。
そこで患者さん自身の血管を、心臓以外の場所から採取してグラフト血管として使用します。

4.どのような血管が使用されますか?

ファバロロの手術では、バイパス血管として大伏在静脈が使用されました。しかし、その後同じクリーブランドクリニックのフロイド ループによって、大伏在静脈よりも、内胸動脈のほうがより長持ちし、術後の成績が向上することが示されます。 もちろん使用できる血管には制限があり、現在では次の4種類の血管を使用することができます。

①内胸動脈  胸郭の前面、裏側を走行、心臓の前に位置する
②橈骨動脈  前腕外側を走行。手首で脈をとる時に触れる血管
③胃大網動脈 胃の周りを走行する4本の動脈のうちの一つ
④大伏在静脈 足の内側を走行する静脈

どのような血管が使用されますか?

どのような血管が使用されますか?

5.オフポンプ手術ってなんですか?

一般的な心臓手術では、心停止下に手術操作を行います。心臓が止まっている間は、全身の血液循環を保つために人工心肺装置(=ポンプ)を使用します。ファバロロの時代から、バイパス手術も心臓の動きを止めて、吻合を行っていました。

1990年代になると人工心肺装置を使わず、心臓を拍動させた状態でのバイパス吻合も可能となります(オフポンプ手術)。動く心臓の上で吻合操作をするためには、吻合部の心臓の動きを抑えるスタビライザー、心臓の裏側の血管に吻合するため心臓を脱転させるポジショナーといった専用の装置を使用します。

オフポンプ手術ってなんですか?

オフポンプ手術ってなんですか?

オフポンプ手術ってなんですか?

広い領域を内胸動脈でカバー
6.複数の動脈グラフトを使用する

バイパスに用いた血管が何年くらい長持ちするかは、血管の種類によってさまざまです。大伏在静脈は術後10年で約半数が傷んでしまいますが、内胸動脈では術後10年で9割以上がきれいな血管のまま流れています。
どの血管をバイパスに用いるかによって、特に長年経ってからの治療成績に差が現われます。なるべく複数の動脈グラフトで、できる限り広い領域をカバーしておくことが、手術計画の上では重要です。

冠動脈バイパス手術の動画(Youtube)

bypassing the heart(Youtube)

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