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救急科
中毒通信
2023年3月の中毒カンファレンス
2023年3月17日に中毒カンファレンスを行いました。
今回はテーマはミフクラギの中毒でした。聞いたことがない方も多いかもしれません。沖縄や亜熱帯地域に見られる植物で、観賞用としても売られています。
実がマンゴーのような外見をしていることからSea Mangoと言われることもありますが、実際はそのきれいな外観とは似つかわしくない猛毒を含み著明な心毒性をもたらします。
キョウチクトウの仲間でありジギタリスのような毒で、その毒成分はケルベリンという名前がついています。実際に南アジアでは自殺の木という物騒な名前もついています。
症例報告をめくると死亡例が次から次にでてくるかなり恐ろしい中毒になります。治療はジギタリスと同様です。
活性炭や胃洗浄が適応になれば行いますし、場合によっては循環不全に対してペーシングやVA−ECMOなどを考慮することになります。
ジギタリス中毒と同様に高カリウム血症にもなるのでそれに対しても対応が必要です。強心配糖体を含む植物としてその他にすずらん、キョウチクトウ、キツネノテブクロ、海葱(カイソウ)などがあります。
動物毒でもヒキガエルの毒ブフォトキシンも同じ強心配糖体を含みます。植物毒や動物毒もなかなか奥深い世界です。
エチレングリコール中毒の新ガイドラインとホメピゾール
2023年1月にエチレングリコール中毒について新しいガイドライン がでました。
エチレングリコールは1月の中毒カンファレンスでも取り上げましたが、不凍液に使われており、甘い味がするため小児の中毒も時折見られます。
ホメピゾールはエチレングリコールがアルコール脱水素酵素に代謝されて有毒な代謝産物(グリコアルデヒド、グリコール酸、シュウ酸など)に分解されるのを防ぎます。
エチレングリコールの状態で体内に残るだけであれば酩酊になるだけで大きな問題は起こさず、エチレングリコールそのものは腎臓から抜けていくので代謝をブロックしておけば大丈夫というわけです。
エチレングリコールが代謝されると有毒な代謝産物ができて代謝性アシドーシスになるわけですが、その前にホメピゾールを使うことができれば透析を避けることができるかもしれません。
逆にAGが27以上の代謝性アシドーシスがあるということはすでに有毒な代謝産物ができているということなので透析を行う必要があります。
細かい透析の適応についてはリンクのガイドラインを読んでみてください。AGの具体的な値が出てきたのが今回のガイドラインで新しく、そして臨床の現場でも役に立つところですね。
2023年2月の中毒カンファレンス
2023年2月17日に行われた中毒カンファレンスはトルエン中毒についてでした。
トルエンはシンナーの成分として使われ、昔はシンナー遊びとして吸入として乱用する方が多かったものです。
最近ではかなり少なくなっていますが、まだ現場で遭遇する疾患のようですね。
アニオンギャップの開大しない代謝性アシドーシスと低カリウム血症が診断の鍵になります。
シンナーなどは本人から自発的に使用歴を教えてくれないことが多いので、診察所見や採血結果などから診断につなげる意義は大きいです。
心筋のカテコラミンへの感受性が高まっていて、シンナー遊びをしている瞬間に警察官に見つかり追いかけられたりすると致死的な心室性不整脈がおこることがありSudden sniffing deathといわれています。
心室性不整脈は通常通り除細動や心臓マッサージなどで治療する必要があるのですが、面白いことにβ遮断薬を使用した方が効果的ではないかと言われています。
違和感を感じるかもしれませんが、Vfストームに対してβ遮断薬を使うことがあるのと似た話です。
2023年1月の中毒カンファレンス
2023年1月13日に中毒カンファレンスを行いました。テーマはエチレングリコール中毒でした。著明なアニオンギャップ開大の代謝性アシドーシスと浸透圧ギャップがあり、診断に至りました。一般にエチレングリコールは不凍液として使用されますが、古いアイスノンにはエチレングリコールが使用されていることもあるので要注意です。エチレングリコールはアルコール脱水素酵素・アルデヒド脱水素酵素により、有毒なグリコール酸やシュウ酸などに代謝されます。拮抗薬であるエタノールやホメピゾールはアルコール脱水素酵素に親和性が高く、有毒な代謝産物の産生を抑えることができます。最近はホメピゾールなどアルコール脱水素酵素阻害薬単剤でも透析なしで治療できることも多いというデータが出てきていますが、すでに代謝性アシドーシスが起きている場合(一つの目安としてAG24以上)にはホメピゾールだけでは治療が十分ではなく、透析をしてエチレングリコールやグリコール酸・シュウ酸などを除去する必要があります。(メタノールはエチレングリコールと違ってほとんどの場合に透析が必要になる点は似たような中毒でも大きな違いですね。)
認知症薬中毒(コリンエステラーゼ阻害薬中毒)
認知症の薬にはさまざまな種類がありますが、一番メジャーなものにコリンエステラーゼ阻害薬があり、ドネペジルやガランタミン、リバスチグミンがそれにあたります。
高齢の認知症を抱えた方が、自分で薬剤の管理を行っている場合には特に注意が必要です。
「内服薬を飲んだのに忘れてもう一度飲んでしまった。」「前日に貼った貼付剤を剥がし忘れて2枚目を貼ってしまった。」など意図的ではなく過量投与になってしまう可能性があります。
貼付剤は貼った後に1日経ってもまだかなりの薬剤が残っていることが知られており、これを繰り返すと効果が過剰になることがあります。
過剰なコリンエステラーゼ阻害薬の作用によって起こるのはコリン作動性のトキシドロームです。
徐脈・低血圧・発汗・意識障害・嘔吐・下痢・縮瞳などがそれにあたります。
とはいえ高齢者が徐脈・低血圧・発汗著明・意識障害で来院したら、多くの場合医療者は心原性ショックを考えると思います。
その時に、薬をレビューして身体所見で貼付剤が何枚も貼られていないかなど診るとともに、縮瞳・下痢など心原性ショックとはやや合致しない所見がないかどうかを確認することが大切になります。
殺鼠剤中毒(抗凝固薬)
殺鼠剤には抗凝固作用をメインにするものが多くあります。
ワーファリンと同じくVitamin K-1,25 epoxide reductaseを阻害し、Vitamin K依存性の凝固因子Ⅱ,Ⅶ,Ⅸ,Ⅹなどの産生が低下して抗凝固作用が出現します。
抗凝固系の殺鼠剤には第一世代と第二世代があり、第二世代は特にスーパーワーファリンと言われ、作用時間・半減期が極めて長いという特徴があります。血中濃度を測定することは通常できませんが、抗凝固作用はワーファリンと同様にPT-INRを測定することで可能です。
毒性としては脳出血などが起こるなど、易出血性が問題となります。通常は48時間以内にINRの延長作用がみられますが、スーパーワーファリンの中には効果出現までにより時間がかかることもあります。
一般には内服後48時間時点でINRが正常であれば中毒症状がでてくることは考えにくいです。治療はVitamin Kを補充することになりますが、ワーファリンであれば2.5−10mg/day程度で十分な効果を得られることが多いのに対して、スーパーワーファリンではその10倍以上の量が必要になることも多く、また治療期間も長期にわたります。
米国では最近合成大麻にスーパーワーファリンが混入していて、若い人たちの中毒が多発した事件が起こりました。誰が何の目的でスーパーワーファリンを入れたのかは未だに分かっていません。
アルコール中毒
アルコール中毒といえばもっとも皆さんがよく診察する機会のある中毒かもしれません。よく見る中毒でも実は… というようなピットフォールをお示しします。
①アルコール中毒は臭いを嗅げばわかる?
実は皆さんが感じるアルコール中毒の臭いはエタノールの臭いではないので、臭いで確実に診断できるという訳ではないので注意が必要です。
②血中アルコール濃度で症状は想定でき診断に重要
血中アルコール濃度を測定できる施設もあるかもしれませんが、血中アルコール濃度が同じであっても上昇している時の方が(飲み始め)、下がっている時の方が症状が軽くなります。(Mallenby効果)また人によって症状は大きく異なります。例えば血中アルコール濃度300mg/dlは普段飲酒されない方にとっては昏睡に至るような血中濃度ですが、普段から多くの飲酒をされている方にとっては普通に歩行できる程度の血中濃度であることもあります。ということで血中アルコール濃度の解釈には注意が必要です。
③点滴で症状回復を
よく知られているようにアルコールは主に肝臓で代謝されます、そのため補液を行ってもアルコール中毒の症状が早く改善するということはありません。脱水を合併していると考えられる場合には点滴が必要ですが、全例での点滴は必要ありません。
④合併症がないか、適切に診断を
アルコール中毒の患者さんはビタミン欠乏や電解質異常、低血糖、頭部外傷などその他の合併症が隠れている可能性が高いです。全例で検査を行う必要はありませんが、適切な問診と診察で必要に応じて検査をする必要があります。
アセトアミノフェン中毒はなぜ起こる?
体内で代謝された為に毒物がたまる!!
アセトアミノフェンは解熱鎮痛薬として広く使われている薬剤です。治療量で使用された場合、アセトアミノフェンは主に肝臓でグルクロン酸抱合および硫酸抱合されて腎臓から排泄されます。一部の(約5-10%)アセトアミノフェンはCYP2E1で代謝されてNAPQIになります。このNAPQIこそが肝障害の一番の原因なのですが、このNAPQIはグルタチオンによって無毒化されます。アセトアミノフェンを大量に摂取すると、グルクロン酸抱合や硫酸抱合が間に合わなくなり、NAPQIが大量に発生します。また大量のNAPQIは量がおおいとグルタチオンによる無毒化が十分になされず、肝障害を起こします。(下記図参考)
アセトアミノフェン中毒治療の切り札 Nアセチルシステイン
ありがたいことに、アセトアミノフェン中毒には非常に有効な拮抗薬Nアセチルシステインがあります。Nアセチルシステインは体内でグルタチオンを増加させてアセトアミノフェン中毒を防ぎます。Nアセチルシステインは摂取量が中毒量(体重当たり150-200mg/kg、または成人では10g以上)の場合や血中濃度がアセトアミノフェン中毒のノモグラムを上回る場合に投与します。140mg/kgを初回経口投与したのち、70mg/kgを4時間ごとに17回(総計18回)投与します。この拮抗薬は腐卵臭がしてかなり臭いのが問題です。ですが、早期に内服を開始すればほとんどの症例で肝障害を防ぐことができる非常に有効な治療となっています。ちなみに最近注目されているアセトアミノフェン中毒の拮抗薬にホメピゾール(本来はメタノールやエチレングリコールの拮抗薬)があります。ホメピゾールはCYP2E1をブロックするために有効になるとされています。
メトホルミン中毒:糖尿病治療薬中毒だけれども低血糖ではなく●●が問題に。
メトホルミンは2型糖尿病によく使用されるビグアナイドというクラスの薬剤です。
糖新生を抑え、末梢での糖の利用を促進し、脂肪酸β酸化を抑えるなど様々なメカニズムでその効果をもたらします。
中毒では低血糖を起こすことが少ないものの、ミトコンドリアの複合体Ⅰを阻害することなど様々なメカニズムで乳酸アシドーシスを起こすことがあります。
メトホルミンのほとんどは代謝されることなく、そのまま腎臓から排泄されます。
そのため、必ずしも大量に摂取していなくても腎臓の機能が悪化したせいで血中濃度が上昇して中毒になることがあります。
中毒では乳酸アシドーシスの他に、低血圧、呼吸不全、意識障害、多臓器不全を起こします。治療の基本は支持療法です。
重症のアシドーシス(pH < 7.1)、高乳酸血症(Lac > 20)、腎不全併発、支持療法で悪化する場合などには透析が適応になることもあります。
咳止めで一大事に?
咳止めに使用される薬にデキストロメトルファンがあります。
NMDA受容体のアンタゴニストとして作用します。メジコンという商品名で病院で処方されるほか、多くの市販薬に含まれていますが、実は麻薬に似た構造であり、乱用の恐れもあり注意が必要な薬です。
服用後はCYP2D6に代謝され活性型のデキストロルファンとなりますが、CYP2D6は遺伝子多型が多くあり、CYP2D6の活性が異常に高い方には少量の内服でも過剰に症状がでることがあります。
残念ながら誰がCYP2D6の高い活性を持っているかは事前には分からないのが難しいところです。
その他にデキストロメトルファンはセロトニンの再取り込みも抑制します。
もともとセロトニン症候群のリスクとなるような薬(SSRIなど)を飲んでいる方は飲み合わせにも要注意です。
ドパミンにも影響をおよぼすため中毒の際には特徴的な歩き方(足幅が広く、つま先を垂らす)をします。
中毒の症状として眼振、失調、意識障害、幻覚などがあります。
市販薬は安全と思いがちですが、思ってもみない副作用が出ることもあるので注意して下さい。
低血糖にサンドスタチン?
糖尿病の治療薬に使われるスルホニルウレア剤は膵臓の細胞で細胞内のカリウムの上昇をもたらします。
細胞内カリウムの上昇→細胞内のカルシウムの上昇→インスリン分泌となります。
サンドスタチンは細胞内にカルシウムが入ることを阻害し、結果としてインスリン分泌を抑えます。
この作用からスルホニルウレア剤による低血糖の際にサンドスタチンを50mcgを皮下注射にて対応することがあります。