2022.08.29
当院で「減量・代謝改善手術」が始まりました
2022年7月28日、当院の消化器外科・板野理主任教授、平野佑樹講師、東邦大学医療センター佐倉病院・大城崇司准教授による、当院第一例目となる減量・代謝改善手術(注1)が行われました。この手術は、千葉県では3施設目、国際医療福祉大学グループ内では初めての手術となります。手術は安全に成功し、患者様は入院中に15㎏の減量を達成、元気に退院されました。今後さらなる減量が期待されます。
手術は高度肥満症【BMI(注2)54.6kg/m2:身長172cm、体重161.4kg】で、糖尿病、睡眠時無呼吸症候群などの健康障害を有する50代男性に対して、2回の内科入院を経て実施しました。
現在、減量・代謝改善手術としては国内で唯一、保険適用の対象となっているこの「腹腔鏡下スリーブ状胃切除術」は、胃をバナナ状に細くすることによって、長期的な減量効果が得られ、糖尿病などの肥満関連疾患の治癒や、心血管・糖尿病・がんによる死亡リスクの軽減も期待できます。腹腔鏡を用いることで小さな切開部から安全に手術が実施でき、手術翌日からの歩行に加え、流動食を取ることも可能です。
手術の効果を最大限発揮するためにはチーム医療が不可欠で、当院では医師(糖尿病・代謝・内分泌内科、消化器外科、麻酔科、精神科、リハビリテーション科)、看護師、管理栄養士、理学療法士からなる肥満症治療チームを2020年1月に立ち上げて、これまで準備を進めてきました。
今後、当院では5例を実施して保険診療での施設要件を獲得し、地域のみなさまに最適な治療をご提供できるよう努めてまいります。
(注1)減量・代謝改善手術
高度肥満症に対する体重減少を目的とした手術はこれまで「減量手術」と呼ばれてきましたが、糖尿病などの疾患に対する治療効果も大きいことから「減量・代謝改善手術」と呼ぶことになりました。
(注2)BMI:
「Body mass index」の略で肥満度を表す指標として国際的に用いられている体格指数で、体重(kg)を身長(m)の二乗で割って算出。日本では現在、糖尿病などの健康障害を有するBMI 35 kg/m2(諸条件を満たせば32kg/m2)以上の症例が手術治療の対象となります。
・板野理 主任教授(中央)
(紫のラインが切離予定線)
なぜ肥満が問題なのか?
肥満は体格指数(Body mass index: BMI 体重(㎏)÷ 身長(m)2、例:体重90㎏、身長 170㎝の場合は90÷1.72=31)で評価されます。BMIが25を超えると「肥満」、35を超えると「高度肥満」となります。太っていても全く病気のない方がいらっしゃる一方で、糖尿病、高血圧、脂質異常症など内科の病気や変形性膝関節症といった整形外科の病気など、一人で多くの病気をお持ちの方がいます。肥満に関係する病気は11種類もあり、このような健康障害をもった肥満を「肥満症」と呼び、肥満が病気の元凶のため減量治療が必要です。
肥満症の治療について
肥満症の治療は食事・運動療法が基本となります。当院では食事療法にフォーミュラー食(商品名:マイクロダイエット)を採用しています。1食をフォーミュラー食(朝食など)に置き換えることで、食事量を減らす際に不足しがちなビタミン、ミネラル、アミノ酸などを補うことができます。減量治療にフォーミュラー食が有効なことは多くの報告で証明されている一方、内科的治療では十分に減量できない方も多くいらっしゃいます。
6か月以上の内科的治療で十分な減量ができない高度肥満症(BMI 35以上)の方に、減量・代謝改善手術の適応があります。
糖尿病・代謝・内分泌内科部長
竹本稔 主任教授 のコメント
減量・代謝改善手術の「腹腔鏡下スリーブ状胃切除術」は、2014年に保険適用となっています。
これまで我が国での検討では、手術後2年の平均体重減少36㎏、総体重減少率29.9%と報告されています。さらに糖尿病のかんかい率が75.6%(かんかい:糖尿病の薬を止めてもHbA1c 6%未満を達成できること)、脂質異常症、高血圧もそれぞれ75.6%、59.7%の方で改善するとの報告があります。内科的な治療では糖尿病を「かんかい」させることは困難ですので、この手術は糖尿病を伴った高度肥満症の方には有効な治療といえます。
減量・代謝改善手術は、外科医、内科医、精神科医、麻酔科医、看護師、薬剤師、理学療法士など多くの職種が関わり、まさにチーム医療で患者様を術前、術中、術後とサポートします。
手術後は胃が小さくなりますので、食事を十分にとることができなくなります。そのため、この手術に患者様が耐えられるかなど、1例1例、手術適応をしっかりと見極めることが大切です。
この大変有効な治療である減量・代謝改善手術が、高度肥満症に伴う健康障害でお悩みの方の‘福音’となるよう、今後もチーム一丸となって治療にあたってまいります。