CIPOは、消化管蠕動が著しく低下することによって腸管内容物が(主に)小腸内に停滞してしまう疾患で、このために腹部膨満や嘔気・腹痛といった状態が長期にわたって持続してしまうことが特徴です。
CIPOは「単一の病気」というよりは、様々な原因の結果として慢性的で不可逆的な腸閉塞状態となってしまった「疾患群」と考えると理解しやすくなります。つまり、結果として一連の病像を呈するようになった状態のことを指し、その中には数々の疾患が包含されています。
CIPOは慢性的な小腸内容物の停滞から小腸内圧上昇・病的拡張を来します。これにより起こる問題点は2つあります。1つは小腸機能不全であり、各種栄養や水分を吸収するという「本来の小腸の働き」ができなくなります。これにより栄養障害や貧血、電解質異常、脱水など様々な弊害を来します。2つ目は腸管バリア機能の破綻であり、腸内細菌が腸管壁の毛細血管から血液中に移行して全身に移行します(Bacterial Translocation)。これにより、重篤な敗血症を来すことがあります。
これらの弊害は時に致死的となるため、きちんとした腸管減圧療法と十分な栄養療法が非常に重要になります。
図1. CIPOの病態生理
CIPOは、もともと腸の動きに異常があり、内服薬や浣腸などでなんとか排便調節可能な状態(代償期)であったものが、徐々に調整がつかなくなり、最終的に嘔気や腹痛、腹部膨満感など慢性的で不可逆的な腸閉塞症状をきたす状態(非代償期)に移行してしまうものと考えられています。この機序はよくわかっていませんが、恐らく手術などの侵襲、(女性では)妊娠出産などのイベント、もしくは膠原病や神経疾患などの基礎疾患の増悪がきっかけとなり、だんだんと腸の動きが悪くなるものと考えられています。
図2. 明確な線引きのできない消化管運動障害
図2のように各状態はシームレスで明確な線引きができず、このためこれまで長年にわたり疾患概念が混沌としてきました。
代償期では基本的に便秘症状のみで所見に乏しく、この時期でCIPOと診断をつけられることは非常に困難です(家族歴があり、非常に難治性の便秘患者であった場合当該疾患を疑診することはできるかもしれません)。この場合は、主に排便コントロールを中心とした通常の慢性便秘症の治療を行います。一方で非代償期では症状緩和、腸管減圧と栄養管理が治療の中心となります。
各種prokineticsや便秘薬・下剤などを併用して症状緩和をはかります。
通常の腸閉塞と同様、イレウス管による腸管減圧が腹部膨満感の改善に有用です。ただしCIPOは慢性的な腸閉塞状態ですので、大半の症例で持続的な減圧が必要になります。通常イレウス管は鼻から挿入し、先端を小腸まで進めますが(下図)、咽頭痛や鼻腔出血などの患者様の負担が大きく、また入院も長期化してしまう事があり、この点が最大の課題です。
図3. 従来の消化管減圧法(イレウス管)
従来のイレウス管の問題点を克服するため、我々は胃瘻を造設しその穴からチューブを留置することで小腸内容物を経皮的に体外にドレナージする治療法(PEG-J)を開発しました。この方法は鼻にチューブを挿入することなく持続的な減圧が可能となり、患者様の負担が出来るだけ軽減されたことが最大の特長です。我々はこの治療法の有用性を検証し、自覚症状だけでなく栄養状態も改善することを発見しました1)。この方法は自宅でも可能であり、患者様のQOL(Quality of Life 生活の質)の向上にも貢献しています。現在、60cmおよび120cmの2種類のチューブが使用可能です。
ただし、腸管減圧療法は、減圧がよくできていても排液量が多くなりすぎるために脱水症や電解質異常を来たしてしまうこともしばしばあります。また、胃瘻周囲の皮膚炎を認めることもあります。これらの点を解決するような進化版チューブの開発を現在検討中です。
図4. PEG-Jの原理
図5. PEG-J挿入の実際
レントゲン透視下で胃瘻の瘻孔(穴)から十二指腸→小腸に挿入した柔らかいガイドワイヤーに沿ってチューブを進めていく(左)。
上部小腸(空腸)まで進めて終了(右)。
図6. 減圧しない場合は体表のボタンにキャップを装着。
体表に出る部分が少なく着衣後もあまり目立たない(左)。
減圧する場合は付属の接続チューブを使う(右)
図7. PEG-J前と後の違い(PEG-J後は小腸拡張が改善していることがわかる)
代償期では低栄養状態となることはほとんどありませんが、非代償期となると腸管からの栄養吸収能が低下し、徐々に「るいそう」(痩せ)を来すようになってしまいます。低栄養状態が極度に進行すると、免疫力低下などから容易に敗血症を来たし、致命的となることもあります。栄養管理をしっかり行い、この危険な状態を回避することが非常に重要となります。
食事は低残渣食とし、これでも腹部膨満が増強するようであれば早期から成分栄養(エレンタール)を導入することが望ましいです。症状を見ながらエレンタールの割合を調整します。低栄養が認められる場合は在宅IVH(高カロリー輸液)を併用することもあります。
低残渣食やエレンタールなどの経口摂取が不可能となった場合、IVH(高カロリー輸液)が必須です。通常はCVポートを右鎖骨下の皮下に留置し、在宅で毎日高カロリー輸液を点滴します。ただしCVポートはカテーテル感染や静脈血栓症をしばしば引き起こし、敗血症や肺塞栓症の原因となることもあります。このような場合には直ちに抜去し、十分な治療後、再度別の場所への留置が必要です。
基本的に安易な腸管切除術は行うべきではありません2)(腸管捻転や絞扼などの緊急時を除く)。短腸症候群を発症し低栄養状態をさらに悪化させてしまいます。そもそも小腸全域の拡張なので切除範囲の決定ができない場合が多く、また仮に部分的な拡張だとしても、術後に遺残腸管の拡張を来してしまい、術前よりもかえって症状が悪化してしまうことが多いからです。ただし、拡張が結腸に限局している場合(巨大結腸症)に限り、結腸全摘術に対する一定の効果が報告されています。
図8. ステージに応じた治療法の整理