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消化器外科

肝臓の病気

肝臓がん(肝細胞がん)

「あなたにとって最適な治療は、ひとつではありません」

肝臓がんは再発を起こしやすいがんの一つです。かかりつけの病院で一度外科的治療を受けた患者様は外科の外来に通い続けることになるため、その後の治療も外科的治療にこだわってしまう傾向にあります。しかし肝臓がんは後述するように、実にさまざまな治療法が開発されており、患者様の状態によって適切な治療法が異なっています。また、それらの治療法から複数をいかに組み合わせて最良の治療効果を上げるかは、幅広い知識と豊富な経験が必要になります。
当院の最大の特徴は、患者様の治療を検討する際に毎回多くの専門科の医師たち(肝胆膵内科、放射線科、腫瘍内科など)と十分な話し合いを行い、患者様にとってそのときのベストの治療選択を行っています。

1.そもそも肝臓がん(肝細胞がん)とはなんですか?

肝臓がんとは、肝臓にできるがんのことをいいますが、これは肝臓そのものからできてくる原発性肝臓がんと、他の臓器(胃や大腸など)から肝臓に転移してきた転移性肝臓がんに大きくわけられます。
さらに、原発性肝臓がんはその由来する細胞によって、肝細胞がん、胆管細胞がん、その他のものにわけることができますが、これらの中で肝細胞がんの占める割合が90%と最も多いため、一般的に肝臓がんというと肝細胞がんのことを指します。

2.どのような検査をするのでしょうか?

肝細胞がんの検査としては、血液データ測定(腫瘍マーカー)、超音波検査、CT検査、MRI検査、血管造影検査などを行います。このようなあらゆるモダリティを駆使することによって的確に診断することができ、さらには一般的に見逃されやすいとされる早期の肝細胞がんや微小な病変などを漏らさずチェックすることができます。
また、肝細胞がんを治療するためには「がんである」という診断はもちろんのこと、肝臓の機能や予備力、さらにがんであった場合に個数や広がり具合などを総合的に確認して治療方針を立てる必要があり、このようにさまざまな検査を組み合わせて行うことでそれが可能となるのです。

3.肝細胞がんと診断されたら?

肝細胞がんの治療法は多岐にわたりますが、腫瘍の状態と肝臓(患者様)の状態を天秤にかけながら患者様個々人に合った適切な治療を選択していきます。
まずは肝障害度(表参照)、腫瘍の数、腫瘍の大きさなどを評価して方針を定めます。肝障害度とは、腹水の有無、血清ビリルビン値、血清アルブミン値、ICG 15分値(ICGという緑色の試薬の排泄試験)、プロトロンビン時間(血液の固まる力)から肝臓の障害度をA、B、Cの3段階に分類したものです。肝硬変の重症度判定基準としてはChild-Pugh分類もよく用いられます(表参照)。

これらの肝障害度や肝硬変の程度が調べられたら、それをもとに次項で述べるたくさんの治療法の中から、患者様の状態に合わせた治療方針を選択します。

表1:肝障害度(live damage)
肝障害度 II III
腹水 (-) 治療効果あり 治療効果なし
血清ビリルビン <2.0 2.0~3.0 3.0<
血清アルブミン 3.5< 3.0~3.5 <3.0
ICG-15(%) <15 15~40 40<
PT(%) 80< 50~80 <50

※上記のうち二項目以上が該当した肝障害度をとる

表2:Child-Push score
スコア 1 2 3
肝性脳症 0 軽度(Ⅰ-Ⅱ度) 昏睡(Ⅲ度以上)
腹水 なし 軽度 中等度以上
血清アルブミン >3.5 3.5~2.8 2.8>
PT時間(sec) <4.0 4.0~6.0 >6.0
TB(mg/dl) <2.0 4~10 10<

※Grade A:5~6点 Grade B:7~9点 Grade C:10~15点

これらの肝障害度や肝硬変の程度が調べられたら、それをもとに次項で述べるたくさんの治療法の中から、患者様の状態に合わせた治療方針を選択します。

4.肝細胞がんの治療は具体的にはどうするのでしょうか?
1. 肝切除

がんを体から切り取ってしまうため、他の治療法に比べて確実な方法といえます。ただし、肝臓は生命の維持に必要な臓器であり、胃や乳腺のように全部とってしまっても大丈夫なものではなく、また腎臓や甲状腺のように全部なくなっても機械(血液透析)や薬(甲状腺ホルモン)で機能を補えるといったものではないため、生命の維持に必要な分だけの肝臓は残さなければいけません。切り取る肝臓の大きさは、がんの位置、大きさや、がんが血管へ及んでいる程度などから決めますが、残る肝臓が生命の維持に充分ではなくなってしまう場合は手術の適応とはなりません。肝細胞がんのほとんどは慢性肝炎、肝硬変といった肝臓機能障害を持った人にできるため、手術前に肝臓の機能(前述の肝障害度や肝硬変の程度)を詳しく調べることが重要になってきます。
特に当院では、腹腔鏡を用いた肝切除を積極的に行っています。一般的に腹腔鏡の手術は難しいとされていますが、さらに工夫を加えて解剖学的理解に則って肝切除を行うことにより、格段に安全かつ確実な手術が可能となります。当院はこのような精緻な腹腔鏡下手術を施行できる数少ない病院の一つです。

2. アブレーション(Ablation)

マイクロ波凝固療法(MCT)、ラジオ波焼灼(RFA)、経皮的エタノール注入療法(PEIT)などがあります。原理は異なりますが、いずれも経皮的にあるいは開腹下に肝臓に針を刺して腫瘍とその周囲のみを壊死させる方法です。残肝に対する影響が小さいため、肝予備能が低くても施行可能です。一度に広範囲(3~5cm)を焼灼できるRFAが近年急速に広まりつつあり、当科でも積極的に行っています。

3. 肝動脈塞栓療法(TAE)

手術の適応にならない患者様(肝予備能が悪い、腫瘍が広範囲に散らばっている等)に行われます。
腫瘍を栄養する肝動脈にカテーテルを挿入し、塞栓物質や抗がん剤を流す方法です。腫瘍細胞が栄養をとるのは動脈からのみですが、正常細胞は動脈と門脈の双方から栄養をとるため、TAEによって腫瘍細胞のみを攻撃することができるという原理に基づいています。門脈が閉塞している場合などは正常細胞も影響を受けるため基本的に適応外となります。
具体的な方法は血管造影検査と同じで、レントゲン室で局所麻酔下に、脚のつけ根の動脈(大腿動脈)からカテーテルを入れて行います。現在用いているカテーテルは細くてやわらかいため、治療の合併症はほとんどありません。また、肝臓の奥へとカテーテルを進め、がんとその周囲の狭い肝実質領域だけを塞栓する治療も可能で、治療後の肝機能の低下も軽度ですみます。放射線医師が行い治療時間は30分から1時間程度です。治療中や治療後に上腹部痛や発熱(39度近いこともあります)がみられることがありますが、時間とともに軽快し、鎮痛剤や解熱剤を使うことでコントロールは容易です。

4. 全身化学療法

切除不能な進行肝細胞がんに対する有効な抗がん剤としてソラフェニブが挙げられ、慎重に適応を判断しているほか、日本独自の治療である肝動脈内注入療法(肝臓全体に薬剤を行きわたらせる点がTAEと異なります)も用いています。

5. 肝移植

肝細胞がんに対する肝移植が2004年1月より保険適応となりました。肝臓がんが「3 cm、3個以内」、または「5 cm、単発」のいわゆるミラノ基準適合例に保険が適用されています。詳しくは、当院の「肝臓がん外来」でご相談ください。

5.まとめ

これまでに述べてきたように、肝細胞がんは患者様の状態、がんの状態によって実に多くの治療の選択肢がある病気です。そのような中、我々国際医療福祉大学医学部消化器外科は大学内外の放射線診断科・放射線治療科・肝臓内科・臨床腫瘍内科らと密に連携をとって患者様個々人に沿ったベストの治療法を提供しております。
「外科に受診したから手術」というわけではありません。各診療科が窓口となって患者様にとってよりよい道を必ずや探し出しますので、まずはお気軽にご相談ください。

メディア紹介

板野 理 医師より、肝臓がん・肝移植についてご紹介しています。

医療情報サイト『MedicalNote(メディカルノート)』インタビュー記事(2015年12月掲載)へのリンクです。

転移性肝臓がん

「いかに手術に持ち込むかがポイントとなり、オプション(手術の工夫)の多さが決め手となります。」

1.転移性肝臓がんとは?

転移性肝臓がんとは、肝臓以外の臓器にできたがんが主に血液の流れに乗って肝臓にがんの塊をつくることです。特徴として、進行したがんに起こり、肝臓に多発することや再発することが多いとされております。さまざまながんが原因となることが知られていますが、最も頻度が高いのは大腸がんです。大腸がんの肝転移の場合には、積極的な治療によりがんを取り除くことができれば、生命予後の改善が見込まれます。
最も代表的な転移性肝臓がんは大腸がん肝転移ですが、その他にも胃がん、膵臓がん、腎臓がん、胆道がん、乳がん、そしてGIST(消化管間質腫瘍)や肉腫という特殊ながんなどまでさまざまです。これらは大腸がんに比べると頻度は低く、ごく限られた条件の中で手術が可能となります。手術の適応は大変難しく、患者様の個々の状態から総合的な判断が必要となります。当院では他領域の診療科と協力して、一つの診療科の枠に留まらずに、手術以外の選択肢も含む横断的な治療を提供できることが大きな特徴です。治療をご希望、ご検討されている方は、是非お気軽にご相談ください。

2.大腸がん肝転移
1.大腸がん肝転移とは?

大腸がん肝転移は、転移性肝臓がんのうち最も頻度が多く、外科治療の機会も多いとされております。進行した大腸がん(StageⅣ)にみられ、大腸がんと診断された患者さんの約10%、大腸がん手術後の患者さんの約7%にみられます。また、診断されてから5年後の生存率は13%、治療後5年の時点での生存率は30~40%程度とされております。

2.症状

肝腫瘍のみでは腫瘍自体がよほど大きくならない限り、通常は自覚症状として現れてきません。

3.検査・診断

血液検査ではCEAとCA19-9とよばれる腫瘍マーカーが測定されることが一般的です。腫瘍マーカーは腫瘍が作り出しているタンパク質であるため、腫瘍が大きくなればその分だけ腫瘍マーカーも高値となります。しかし、すべてのがんで腫瘍マーカーが高値であるとも限らず、逆に腫瘍マーカーが高値というだけではがんの診断にはなりません。定期的に測定することで値の上昇の有無を見極めることが重要です。 画像検査としては、超音波検査、CT検査、MRI検査、そしてPET-CT検査を行うことが一般的です。特に造影剤を用いたCT検査やMRI検査は、診断にとどまらず、治療方針を決定する上でも大変重要な検査となります。後述するナビゲーション手術もこれらの画像検査を基盤としております。

4.治療方法

転移性肝臓がんの代表的な治療法は、手術、全身化学療法(抗がん剤)、肝動注療法(抗がん剤)、熱凝固療法(焼灼術(しょうしゃくじゅつ))に大きく分類されますが、手術による治療成績が一番よいとされております。
当科では、各診療科と密な連携を図ることで患者様個々の状態に合わせたオーダーメード医療を提供しております。手術はもちろん、抗がん剤、熱凝固療法などの局所療法を組み合わせることで、患者様にとって最善の治療を提供できるよう常に努力と挑戦を行っております。特に手術においては、これまで手術の適応外とされていた患者様でもさまざまな技術・治療法を駆使することで、がんを取りきることが可能となるケースが多く、このような治療を提供することが当科の最大の特色であるといえます。手術が困難とされた患者様にいかに手術(治療)を提供できるか、を我々のオプションを最大限に使用して考案しております。

(a)手術

手術が可能かどうかは患者様の状態にもよりますが、肝臓以外の転移の有無、がんの場所、どれだけ正常な肝臓を残せるかにより決まります。肝臓は手術後に再生することが知られておりますが、生命を維持するのに最低限の肝臓が残されなければ、手術を行うことはできません。取り除くことができるか否かには統一された明確な基準はなく、施設毎に異なっているのが現状です。手術の方法は一通りとは限りません。何通りも考えられて、その中から最善の方法を選択することが肝臓外科医には求められています。しかしながら、手術で根治の可能性が十分にある患者さんが手術の適応がないとされている場合も多いのが現状です。

■他院で手術できないとされる一般的な理由

・腫瘍の場所
・腫瘍の大きさ
・腫瘍の個数
・患者様の肝機能や全身状態
・複数回手術
など

左上図は転移性肝臓がんの手術前のCTですが、腫瘍(黄色矢印)は血管に近いものの肝臓表面近くに位置しており、比較的容易に手術が可能と考えられます。3D構築像(右上図)でみても肝臓表面の小さな腫瘍であることがわかります。実際の手術では、腫瘍を含めた部分切除という術式が選択されました。


上図も転移性肝臓がんの手術前のCTですが、黄色の丸で囲ってある部位に腫瘍が存在します。この症例では肝臓の左右に腫瘍が多発していました。


このCT画像をもとに3D構成をした画像が上図となります。腫瘍(ピンクや緑の球体で表示)は肝臓の右側(図では左側)に多く位置しておりますが、肝臓の左側(図では右側)や肝臓の深部にも腫瘍が存在していることがおわかりになると思います。このような症例では、施設によっては手術が困難とされることもあるかもしれませんが、手術の方法を工夫することで十分に取りきることが可能と我々は考えます。


(b)全身化学療法(抗がん剤)

「分子標的治療薬」と呼ばれる新たに開発された抗がん剤などの進歩により治療効果が高まってきております。当初は手術不可能とされた場合でも、抗がん剤が効果を発揮すれば、手術が可能となることがあります。また、手術後の再発率が高いため、手術後には十分な抗がん剤投与を行うことで予防に努めております。

我々の強み

ナビゲーション手術

当院の特徴の一つとして、手術前に画像解析ソフトによる手術シミュレーションを積極的に行っております。手術の戦略や手順について十分に検討を行うと同時に、実際の手術の際にシミュレーション画像を参考にしたナビゲーション手術を取り入れることで、安全性を担保された質の高い手術が可能となっております。
当院では系統的(解剖学的)肝切除とよばれる腫瘍学的に治療効果の高い術式を選択するケースが多く、ナビゲーション手術が多いに効果を発揮しております。また、これらの技術により大量の肝臓を切除しなければならず、従来ならば手術が困難とされていた患者さんでも、全く新しい切り口で一定量の肝臓を温存し、手術が可能となる場合があります。

腹腔鏡下肝切除術

腹腔鏡下肝切除術は当科の大きな特色の一つです。肝臓内視鏡外科研究会理事であり国内外で有数の経験を誇る板野医師の主導の下、本術式を積極的に行っております。現在では可能な限り腹腔鏡を用いた、低侵襲でかつ安全な手術を実践しております。
腹腔鏡下手術とは、従来から行われているお腹を大きく切る開腹手術とは異なり、複数の小さな穴をお腹に開け、小さなカメラでお腹の中の映像をモニターに映し、鉗子とよばれるマジックハンドのような機器を用いて手術を行う方法です。お腹の傷が小さく、体への負担も少ないため、早期の退院・社会復帰が可能となります。現在では、技術の進歩と手術機器の発達により、開腹手術と同等に手術を行うことが可能となってきており、手術後の再発の有無などの長期成績も同等とする報告も多く見受けられます。
上記での解説のように、肝細胞がん、大腸がん肝転移ではその性質上、複数回の治療を行うことがあります。手術の後には、お腹の中に癒着と呼ばれる現象(お腹の壁や臓器がべったりとくっつき、次回の手術が非常に困難になること)が知られていますが、腹腔鏡下肝切除後は癒着も少なく再手術が非常に行いやすいことが知られています。複数の治療を最適に組み合わせる集学的治療ががんの治療において重要になってきた現在、腹腔鏡下肝切除の重要性は増しており、当院はそれらにおけるさまざまな発信を行っています。

専門外来「肝臓がん専門外来」(水曜日午前)

日本肝癌研究会幹事、肝臓学会東部会評議員、日本肝胆膵外科学会高度技能指導医の板野医師が担当します。

「とことん病気と戦うために」

大学病院として最先端治療に取り組んでいます。血管合併切除を伴う拡大手術、ラジオ波焼灼術、ステント治療、カテーテル治療、肝移植とあらゆる手段を国際医療福祉大学グループそして慶應義塾大学外科とのネットワークのもとに駆使し,最後まで肝臓がんと戦います。

「可能ならば低侵襲で」

高度な技術を要し、行っている施設の限られる腹腔鏡下肝切除を手掛けています。日本肝胆膵外科学会高度技能指導医、日本内視鏡外科学会技術認定医そして肝臓内視鏡外科研究会世話人である担当の板野医師は、腹腔鏡下肝切除術では、国内外有数の症例経験数を誇っています。

・低侵襲手術から、移植を含む拡大手術までのあらゆる外科的治療を全方位的にご提供できることが我々の最大の強みと考えております。他病院で手遅れと断られた患者様、手術を決めたけれど腹腔鏡手術の話を聞いていない患者様など、いつでも相談にいらしてください。

主な対象疾患:
肝:肝細胞がん、肝内胆管がん、転移性肝がん、肝良性腫瘍、肝移植を必要とする疾患(肝不全など)